メモのようなもの

映画と舞台の感想とか諸々

「杉原千畝」

先週観て、メモっていたのをまとめました。
相変わらずの文章力の低さですが。


今回この作品で何より評価したいのは、感動を前面に出していないところ。
そもそも杉原氏はスパイ的な役割を担っていた事実を淡々と映している。
昨今の杉原氏の偉業の紹介ではビザを発給しました、で終わりなのが戦後まで描かれていて、だからこそ自然に感動できる。
杉原氏がビザ発給を宣言するシーン、一度暗くなってから唐沢寿明さんのアップで始まり、ドラマあるある演出とはいえ鳥肌が立った。

なぜこんなことを書いたかというと、そこそこ期待していた「海難〜」が徹底してお涙頂戴もとい泣かせます姿勢だったから。
史実は今回の「杉原〜」みたいな形で映像化するのが好きです、わたしは。


序盤の杉原氏はスパイとしての面が強調されている。そんなシリアスななか出てくる板尾創路さんとのちの妻となる小雪さん。小雪さんは久々に拝見しましたが相変わらずお綺麗でした。

そこからリトアニアの話になるのですが、ここで出てくる運転手のポーランド人が結構記憶に残った。彼の国はその時期にはなくなっていたのだけれど、同じように国のないユダヤ系民族に偏見を持っている。
今はユダヤ系民族で世界的に活躍する方がたくさんいらっしゃるからかあまり目にしないけれど、何千年の歴史の中で差別されてきた彼らの姿に映画とはいえ胸が痛んだ。
特に苦しかったのが、ビザを求めた彼ら、なかでも子供が寒空の下お腹を空かせているその側で、暖かい空間でお菓子を食べている杉原氏の同僚ら、という対比。
最終的には発給に至るとはいえ、時代の残酷さを垣間見た気がした。

ビザを発給、のくだりは他の再現ストーリーと変わらないのですが、ビザにサインをする疲労を軽減するためにポーランド人のペシュがハンコを持ち込んだのは彼の存在も含め事実だったんですね。

感動物語なら発給でおしまいなのをその後も描いていたのですが、この終盤でのあるシーンでの小日向文世氏演ずるセンポの上司の表情にびっくりした。あきらめのような希望のような。彼のような心情になった戦前までのエリートはきっと多くいた気がする。
あと、ゲシュタポの話とか。正直これ海外では上映アウトだと思うんですが、それよりもクオリティを追求したようで・・・史実ものをやるならそのくらいしてほしいです。
そして、スパイ時代の仲間?でもある女性がセンポに「ユダヤ系の夫はアメリカに亡命したあと科学者になった」ことを謝罪する手紙を送るのですが、直接ではないけれどそれが意味することを多くの日本人は知っているわけで、感動もののなかでその現実の残酷さもあるのだと嫌でもわかってしまった。

彼の話とは少しずれて、強制収容所の戦後の話もすこーし出てくる。
センポが切手をあげた男の子がその収容所の雪に埋もれていて。
日系人部隊が見つけて微笑みかけられ、センポと勘違いするシーン、ベタなんだけれどモブ兵士の表情も含めとても良くて、しかもこれが実話なのだから現実は不思議なものです。

ラストは穏やかに締めくくられる。
事実を淡々に、時に残酷にも写していたからこそ妙に暖かかった。
その後のEDで、彼の偉業とそれに対する評価が紹介されたのですが、日本の外務省が彼の名誉回復をしたのは2000年という遅さ。
かのジャンヌダルクが聖人認定や名誉回復までにかけられた時間に比べれば短いし、色んな要因があって回復したくてもできなかったとは思うのですがせめて生前にと思わざるをえない。


唐沢寿明さん、やっぱり凄いなというか、頭の良さも人としての優しさもスパイとしての冷静さもすべてひっくるめて素晴らしかったです。



杉原千畝氏のビザで命が助かった人々のその後が少し出てくるのですが、多くが笑顔で未来への希望に溢れていて。彼らの子孫はいまは400万人を超えるそうです。1人の力がそんなにも人々を救うとは。
長い時間はかかったけれど21世紀の今、語り継がれるようになりそして丁寧に彼を描いた作品もこんな風に大きく上映されるようになってよかったです。

もう一つ、同時代ものの作品として「母と暮らせば」も近いうちに見たいなー、いつになるのやら。