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アイヒマン・ショー

★★★★★

この感想を書くのに時間がかかったのはしんどすぎたり忙しかったりでして、
まあとりあえず土曜、初日にヒューマントラストシネマ有楽町にて観てきました。

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ポスターはかっこいい。

まずタイトルでもあるアイヒマンとはナチス統治下において、ドイツ親衛隊にも所属したアドルフ・アイヒマンのこと。
ナチスのトップたるヒトラーが行ったユダヤ人殲滅作戦=ホロコースト計画の幹部(確か最高責任者は違う人間)で戦後亡命しアルゼンチンに潜伏しますが捕らえられイスラエルにて裁判にかけられた人物。 

今作ではその裁判をテレビで報道するために奔走した人々の姿が描かれています。
先週公開された「スポットライト」のテレビマンバージョンと言ったところか。
 

ここのところナチス関連の映画作品をよく見かけるような気が。昨年公開の「顔のないヒトラーたち」、今年話題の「サウルの息子」やあとそもそもヒトラーを主人公にした作品も近く公開されるはず。70年の節目だからなのかはわかりませんが今作はその中でもとても良かったと思います。


そもそも戦争関係の映画って、過去の再現映像的なところがあって。例えばその場にいた人の話から作るとか、より効果的に見せるために盛るとか・・・で、中々当時のリアルな映像って見ることはない。
もちろん資料館や歴史番組ではやるけれど、それでもそこまでインパクトのあるものは写真はともかく映像としては見ることが少なく感じられる。今は色々煩いし仕方ないのかもしれない。


以下軽くネタバレ







ただ今回はそこについてもきちんとすぎるぐらいに時間が割かれていて、ゆえに本当に辛かった。
辛いというか、苦しいというか。映画館から逃げ出したくなった。
逃げないできちんとこの目で見て、当時のホロコーストがおぞましい現実だったのだと痛感するほかなかった。

てっきり、頑張るテレビマンみたいな作品だと思ってたけれどすぐにそれが打ち砕かれる。
本物の、当時の映像が次々と流される。裁判では本当に当時の弁論シーンが出てきて、あまりに悲惨な事実が次々とそれを経験した人々によって語られる。
ある人が体験した「身近な死」も途中から予測できるのに実際に口にされるとあまりにショッキングだった。
それだけではなくて、収容所の「生きていない」人々や、ひどく痩せ細った人々の姿さえも映し出されて・・・それが人間なのか、そしてそれは人間が為したことなのか、と信じたくないほど。
グロだなんだとかそんなんじゃなくて、本当に本当の現実である映像はしばらく目に焼き付いて離れなかった。


だからなのか次第にテレビマンたる主人公たちに気持ちが寄る。
辛いと泣き出すのも席を外したくなるのもその場にはいないのにだよなあ、と思えた。
そして、アイヒマンがどう反応するのかも彼らと同じように気になりクライマックスに向かう。


凄い作品。
90分程度なのにもっと長く感じた。

だけどこの作品においてもっとも訴えたかったことはそれとはまた別にもあるのか、ラストはこちらの胸にナイフを突き立てられたかのようだった。
アイヒマンはそもそもは家族思いだったのに何故狂気に走ったのか、その根本的要因は誰にでもありうること。
誰だってあの防弾ガラスの中の席に座る可能性はあるし、だからこそ今もなお戦いの炎は消えないのかもしれない。



とまあ長く書いたけれど
ちびっ子にはちょっとオススメしにくい。
カップルでもどうだろう。
歴史の勉強の必要性を感じられない10代や私のようにしょーもない人生真っ最中な自覚をしてしまった人は見て損はない、はず。