メモのようなもの

映画と舞台の感想とか諸々

海よりもまだ深く

★★★★

海街diary」「そして父になる」の是枝裕和監督が、「歩いても 歩いても」「奇跡」に続いて阿部寛と3度目のタッグを組み、大人になりきれない男と年老いた母を中心に、夢見ていた未来とは違う現在を生きる家族の姿をつづった人間ドラマ。15年前に文学賞を一度受賞したものの、その後は売れず、作家として成功する夢を追い続けている中年男性・良多。現在は生活費のため探偵事務所で働いているが、周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳していた。別れた妻・響子への未練を引きずっている良多は、彼女を「張り込み」して新しい恋人がいることを知りショックを受ける。ある日、団地で一人暮らしをしている母・淑子の家に集まった良多と響子と11歳の息子・真悟は、台風で帰れなくなり、ひと晩を共に過ごすことになる。主人公の母親役を樹木希林が好演し、共演にも真木よう子小林聡美リリー・フランキーら豪華な顔ぶれがそろう。(映画.comより引用)



なりたいものになれた大人ってどれくらいなんでしょう。
就活に失敗してるし、入った企業で部署外の人間からメンタルの心配をされてるような私は1番なりたくなかった私だったかもなあ、情けないや。
阿部寛演じる主人公は過去の栄光が忘れられなくて今もどうしようもない。金銭的にもだらしない。それでも家族だからなのか、母親は主人公に今も世話を焼くし、主人公は自分の生活の立て直しよりも息子が気になる。 

中年にさしかかった主人公と亭主を亡くした母親との会話で周りから笑いが起きていた。多分その世代にいた、あるいはいるからこそ共感できることもあるんだろうな〜
 
同世代という意味では私は主人公とバディ状態の池松くん演じる青年に共感したような気が。
あんなどうしようもない主人公と借りがあるといいつつ仕事したりパチンコ打ってできるのは彼が少し漏らした家庭環境に理由があるのかなとか考えてた。

どの役者さんもとても自然で、真木よう子さんはあんなに色っぽくて美人なのに所帯じみたような美しさがあるし、阿部寛さんは彫りの深い美形なのに情けないボロボロ感が妙に似合ってる。是枝作品常連のリリーさんも良かった。
 中でも特筆すべきはやはり樹木希林さん。
なんでこんなに自然で、さりげなくて、でも重いんだろう。1つ1つのセリフがありふれつつもすごく印象的に感じるのはこの方の演技故かも、なんて。

しかし私が流されたのは息子、真悟。ぜーんぜん笑わない彼がおばあちゃんに言った言葉、やっと見せた笑顔、ここで泣いてしまった・・・
この息子が主人公を感じさせるところがあって、たとえ離れても親子なんだろうな、と思える。フラグ回収じゃなけれど、はっとさせられる。
是枝監督は子役選びもうますぎる・・・ってそうか柳楽優弥氏の「誰も知らない」は是枝さんだったな。

クライマックス、主人公が息子にかける言葉、なりたいものになれなかった全ての大人に響く言葉だったと思います。

なりたいものになれなくて、自分の考えも誰かに責められるのが怖くて言えない。休日も仕事の悪夢を見て自分が普通でいられるのかも少し不安になっている。けれどあと少し、もう少しこの仕事を頑張りながらなりたいものをもう一度見つけよう。そう思えた作品でした。